広大な草原を緩やかに登って行く。草原から灌木のに入ると、再び岩がゴロゴロする急な登りになった。これをがんばって登って行くと、すさまじいガレ場に出た。岩屑に覆われた急な斜面が真っ直ぐに、ずうっと続いているのだ。これはきつい登りであった。沢を詰めるようにして急登を続け、ようやくガレ場の終点に着いて左折する。展望が広がって、下に熊沢田代の湿原が小さく見えた。
山の斜面をトラバースするように歩いて行くと、突然、赤い崩落地が現われた。これを横切るのだ。木道を渡してあるので少し安心した。
再び急な登りが始まる、灌木の間の細い道ををひたすら登って行く。ハイマツのトンネルをくぐるようにして急登して、これから抜け出したら、すさまじく急峻な山が見えた。熊沢田代から見えていた燧ヶ岳とはまったく違う山容である。これが柴安ーであった。
道はハイマツから岩場に変わる。大きな岩が累々として、これを乗り越えて登って行くと、石の祠が祀られる山頂に着いた。ここが燧ヶ岳の双耳峰の一つ、俎ーである。ここには二等三角点があった。ここで、熊沢田代で会った登山者と再会した。彼は同じ道を引き返すつもりでいたらしいのだが、私が長蔵小屋み下って沼山峠からバスで御池に戻るつもりだと言ったら、それはいいコースだということになった。ところが、この人はお金は車に置いてきていて、小銭しか持っていないので、バス賃が50円足りないという。50円貸すことにした。
すぐ隣には最高峰の柴安ーが鋭く聳えている。でも、この俎ーからは一旦急下降して、それから登り返さなければいけないのだ。鞍部には木道が見える。私は燧ヶ岳から長蔵小屋に下るつもりなのだが、その下山路はこの俎ーからなので、柴安ーは往復することになるのだ。険しい上り下りを往復するのかと思うと、気が重くなってしまう。
俎ーから岩場を急下降する。でも、意外と鞍部までは近かった。鞍部は湿原なのだが、水は涸れて裸池になっていた。
柴安ーへの急登が始まる。大きく聳える巨岩の下を過ぎると、岩が累々とする中の急登になる。
岩を乗り越えて登って、ようやく山頂に着く。岩が重なる狭い山頂と思ったら、その向こうに意外と広い緩やか斜面があって、ここで登山者が休憩していた。
山頂は雲でまっ白で、下の景色を見ることはできない。でも、休んでいたら雲が流れて尾瀬ヶ原が見えた。すばらしい眺めだ。雲は次々と流れてきて、すぐにこの景色を隠してしまう。尾瀬ヶ原を眺めることができて、尾瀬にいるんだという実感が湧いてきた。
尾瀬ヶ原の方から登山者が次々とやってくる。山頂も賑やかになったので、早々に俎ーへ引き返す。この途中でも、団体と何度かすれ違った。
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