2012年7月13日

出羽三山のすべてに登ろうと出かけてきたのだが、昨日は湯殿山から月山に登った。だから今日は最後に残った羽黒山に登ろうと思う。…とはいいながら、羽黒山というのは山なのか？と思ってしまうのだ。羽黒山山頂には三神合祭殿があって、このすぐ近くまで車道が通っている。参拝者は車で山頂まで行ってお参りするのだ。
しかたがないので、気持ちを切り替えて半分観光のつもりで登ることにした。
羽黒山へは羽黒山表参道を行く。駐車場のすぐそばには「いでは文化記念館」がある。これは帰りに寄ることにして、まず登ることにした。
駐車場から神社に向かって歩いて行くと、赤い鳥居がある茅葺きの家が目を引く。これは出羽三山参拝の参籠所で宿坊なのだ。
表参道の入口には「月山 湯殿山 羽黒山 出羽三山神社」と刻まれた大きな石柱がたっている。石の鳥居をくぐるとすぐに赤い「随神門」がある。高さはあまりないのだが、両側には神像が安置されている立派なものである。この門は元禄年間に秋田矢島藩主が寄進したものだが、かっては仁王門だったのだ。明治の神仏分離で今のかたちになってしまったのだという。ここだけではなく、全国の山岳修験道の宗教施設が神仏分離令で壊滅的な被害を受けているのだ。
神門右の前には太い注連縄を張った苔むした巨石がある。「天拝石」といって、昔修験者が行法を行ったのだが、もともとここにあったのではなくて、昭和16年に移転したものだそうだ。
随神門をくぐると石段を下る。この坂には「継子坂」という名がついている。これから続く参道は杉並木となっているのだが、樹齢300年を経た巨木で、特別記念物とされている。
長い石段を下って行くと、下にはいくつもの社が並んでいるのが見える。石段を下り終えたところで右折する。ここには6つの社が並んでいた。
すぐに「祓川神橋」で祓川を渡る。渡った先で右に道が分かれている。この角にあるのが「注連掛(しめかけ)桜」、出羽三山を参拝する人が祓川で禊ぎをしたときに、この桜の枝に注連を掛けたのだそうだ。その桜は最近植え替えたのかと思うような小さいものななのだが、樹齢200年と書かれていた。
ここから石橋で祓川を渡ると祓川神社である。ガイドによると、神社の後ろには須賀の滝があるはずなのだが、それが見えない。でもよく見たら、岩壁を滴り落ちる細い流れがあった。

参道に引き返して、石畳の道を行くと、右に分かれる道があって、その正面に大きな杉の木が聳え立っていた。これが「翁杉」であった。樹齢1000年以上といわれ、山内随一の巨木なのだ。昔は婆杉という巨木もあったらしいのだが、明治35年の台風で失われてしまったらしい。この翁杉から右に目をやると、杉林の中に五重塔が見えた。
翁杉の前で右折して、国宝の羽黒山五重塔に向かう。
この五重塔は、承平年間に平将門が創建したというが、長慶天皇の時代（620年前）に再建されて、慶長13年（380年前）に最上義光にようって修造されたのだ。高さ29.9mの立派な五重塔である。
五重塔の前を右に歩いて行くと、広い参道に出る。この交差点には社が三つあった。ここから行く手の参道の眺めがすばらしい。杉の巨木の並木が続いて、石畳の道が登って行っている。この坂が「一の坂」である。
一の坂の石段は急なうえ、長い。これを息を切らして登って、平坦地に着くと、葉山祇神社があって、その前には火石があった。どんな由来があるのかわからない。また「湯殿山遙拝」という白柱もあった。ここから湯殿山が見えるのかと思ったが、鬱蒼とした杉林の中で展望できるはずがない。
石畳の緩やかな道を行く。それにしても、道の両側に聳える杉の巨木には圧倒されてしまう。
すぐにすさまじく急な長い石段が見えてきた。これが「二の坂」である。冗談だろうと思うほどのすさまじく長い階段が続く。ようやく平坦地に着くと「名物力餅 二の坂茶屋」があった。ここには「御坂中央」と刻まれた小さな石碑もあった。ここが中央ということは、まだ半分で、今までと同じくらいの登りが残っているということだ。
緩やかな石畳の道が続く。歩いて行くと林の中に石碑が見えた。これは「芭蕉翁三日月塚」であった。松尾芭蕉は月山に登る前と後にここに逗留していて、ここで
　涼しさや　ほのか三日月　羽黒山
の発句をしたのだそうだ。

杉の巨木の参道を行くと、鳥海山遙拝所があったが、ここも深い林の中で鳥海山は見えるべくもない。そのすぐ先には伊邪那岐稲荷神社と刻まれた石碑があって、林の奥に赤い鳥居が見えた。参道から15mほどらしいのだが、めんどうなので立ち寄らなかった。
再び急な坂が見えてくる。これが「三の坂」である。この坂の前に「南谷」の入口があった。松尾芭蕉は曾良とともに南谷に六日間逗留したのである。
この南谷は帰りに寄ることにして、目の前に立ちふさがる三の坂を登ることにする。この坂は今までの坂よりは緩やかだが、急な登りであることにかわりない。
登って行くと「田谷村杉」の標識があった。このあたりの杉は田谷の庄屋が寄進したものなのだそうだ。なるほど、素晴らしい杉並木である。
石段を登って行くと格子が赤い「埴山姫神社」があった。よく見たら、格子に赤い紐がびっしりと結わえつけられているのだ。祈願のためのものらしい。
さらに急な石段を登って行くと、踊り場のような平坦地があって、両側に神社があった。右が八幡神社、左が尾崎神社である。
ここから石段をひと登りすると、ようやく平坦な石畳道になった。疲れた…と深く息をついた。
少し行くと「斎館」という看板があって、参道の左を指している。斎館は羽黒山参籠所で、ここの精進料理は有名なのだ。齋館から少し上ると赤い鳥居があって、その手間に手水舎があった。ここの水は月山の四合目・六合目から引いてきた清水なのだ。手水舎で手を洗い、口を濯いで心身を清め、鳥居をくぐると、いよいよ出羽三山神社の山頂境内である。

境内に入ると、まず「厳島神社」がある。ここに施された彫刻はすばらしい。その隣にあるのは蜂子神社。出羽三山の開祖蜂子皇子を祀る神社なのだ。蜂子皇子は推古元年(593)に海路で庄内由良港に上陸して、三本足の霊烏（八咫烏なのか？）に導かれてこの羽黒山に登ったのだそうだ。皇子の修行が羽黒修験道に発展して、今日の出羽三山の礎となったのである。
すぐに「三神合祭殿」に着く。これが出�虫O山神社の本殿である。茅葺きのすさまじく大きな神殿なのだが、このときはちょうど工事中であった。神仏習合時代の特異な造りで、高さは28mもある巨大な神殿である。そして、この屋根の茅葺は厚さ2.1mもあるのだ。
神社正面でお参りして、ふと見上げると、三つの額が掲げられている。真ん中が「月山神社」、左「湯殿山神社」、右が「出羽神社」となっている。だから三神合祭神社なのだ
この神殿の前には「鏡池」が広がっている。この池には古来、鏡が埋納されていて、今までに500面以上出土されたという。ほとんどが青銅鏡で、平安・鎌倉時代のものが多いらしい。
神殿かさらに進むと茅葺き鐘楼がある。この鐘楼は五重塔に次いで古いもので、大鐘には建治元年(1275)の銘がある。鐘楼も大鐘も国の重要文化財である。
参集殿から少し奥に入ったところに鮮やかな赤の「霊祭殿」がある。これは昭和58年に改築されたものである。
神殿前の広場から下って行くと、ずらりと九つの社が並んでいる。この前を通って左折すると、「出羽三山歴史博物館」の前に着く。私は羽黒山山頂の標識を探してここまで歩いてきたのだが、それらしきピークが見つからない。博物館のすぐ先に樹林に覆われた丘がある。これではないかと登って見ることにした。かすかな踏み跡をたどって丘の上に着いたが、コンクリート水道施設があるだけで、山名標識や三角点はどうしても見つからなかった。
大神殿に引き返すと「天宥社」という社があった。羽黒山中興の祖と仰がれた天宥法印を祀った社で、没後15年に訪れた芭蕉は法印の威徳を偲んで
　其玉や　羽黒にかへす　法の月
と詠んでいるのだ。この前には芭蕉の銅像がたっていた。
この近くに蜂子皇子御墓があるというので行ってみた。玉垣に囲まれた中には杉の巨木が数本たっていた。

あとは登ってきた表参道を引き返す。
もちろん途中、南谷に寄った。三の坂を下ったところから、左の細い道に入る。踏み石が並べられていて、これを歩いて行くと樹林から抜け出して東屋がたつ広場に着いた。
羽黒山中興の祖といわれる天宥が山を切り開いて、山上から寺院を移築して庭園を造営したのだ。でも、それはわずか10年で炎上してしまったらしい。
芭蕉が訪れたのは、寺院が再建された元禄2年(1689)のことで、芭蕉の詠んだ
　ありがたや　雲をかほらす　南谷
の句碑もあった。
参道に引き返して、あとはひたすら石段を下る。
参道入口に戻ったのは14時55分。最後に「いでは文化記念館」に入ってみた。ここでは出�虫O山文化をわかりやすく解説してくれるのだ。