大峰岳からはすぐに急下降になった。急斜面をジグザグに下って行くと、さらにきつい下りになって、そこは階段になっていた。この階段の下りからは行く手に白神岳に続く尾根が見えた。すぐ先に樹林のピークがあって、その奥に白神岳らしい山が見える。すごく遠い。これなら3時間以上かかるのは本当らしい。ガイドブックによると、大峰分岐から大峰岳の間では10回も登り下りを繰り返すと書いてある。これは本当に大変そうだ。
鞍部から登り返す途中からは、いま歩いてきた尾根が展望できた。
登り切った先は尾根が狭まっていて、両脇は紅葉のブナ林である。すばらしくきれいだ。
アップダウンが続く。大峰岳から1時間余り歩いたところに、大峰分岐まで2kmの指導標があった。
尾根道の左には向白神岳の稜線が見えているのだが、この山稜に雲がかかり始めた。今日は完璧な晴れと思っていたのだが、山の天気は変わりやすい。山頂に着くまで晴れたままでいてくれと祈るしかない。
笹藪の斜面を登って行くと、樹林から抜け出して展望が広がる。振り返ると歩いてきた稜線を一望でき、崩山の左には西海岸の海岸線が見える。行く手には白神岳の大きな山塊が見える。尾根の四方は山々が幾重にも連なっていて、それらは鮮やかな紅葉に覆われている。この山を包む樹海は世界遺産のブナ林なのだ。絶景としかいいようはない。
平坦な尾根の途中に、ふたたびマップの小さなパネルが立っていた。何の標識もないのだが、ここが白神岳の肩と言われるところではないかと思う。ここから世界遺産の核心地域に入るのだ。13時になっていた。
稜線を歩いて行くと、今まで山頂と思っていた山の後ろにさらに高い山が見えてきた。こっちが本当の山頂らしい。
緩やかに下ってから手前のピークに向かって登って行く。途中から潅木の中に入ってしまって、その林の中でピークを越える。再び展望が開けると笹原の尾根で、次のピークに緩やかに続いている。この頃から行く手のピークに雲がかかるようになった。
大峰分岐に着いたのは13時41分である。明日はここから黒崎に下るのだ。ここに立つ指導標には山頂まで700mと書かれていた。もうすぐである。
展望の稜線を行く。すばらしい眺めが広がっているのだが、時々雲が湧き上がってきて、視界を遮る。
10分ほど行くと、山頂避難小屋の三角屋根が見えてきた。昔と同じ形をしている。山頂直下は広大な笹原の斜面である。階段の上りになって、傾斜が緩まったところに石の祠があった。白神大権現の祠だという。
ようやく小屋に着いたと思ったら、これは小屋ではなくてトイレであった。昔の山小屋は今はトイレに変わってしまったのだ。
ここから少し行くと本当の避難小屋があった。小屋の前には大きな縁台のようなベンチが置かれていた。小屋に入ると誰もいなかった。三階建ての造りで、私は二階に寝ることにする。ザックを置いて山頂を目指した。
小屋からは山頂まではすぐで、高度差もほとんどないのだ。
山頂には昔と同じ山名標識があった。なんかうれしくなってしまう。そしてここに置かれた三角点は一等三角点であった。最近登った山はほとんど一等三角点である。
山頂からの眺めはすばらしいのだが、遠くは雲が湧き上がって霞んでしまっている。
小屋に引き返して、水筒を持って水汲みに行った。山頂のすぐ手前、左に踏み跡がある。ただ、この道は完全に笹藪に覆われていて、背丈以上の笹を掻き分けて下って行くのだ。
水場の水量は十分であった。でも、この水は煮沸しないと使えないらしい。この斜面の上には山小屋があるのだから当然かもしれない。
小屋の中は暗いので、食事は外の縁台の上でした。展望を楽しみながら食事と思っていたら、あっというまに雲が湧き上がってきて、真っ白になってしまった。
この日、小屋に泊ったのは私一人であった。
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