天の庭からは、その名の通りのきれいな景色が続いた。とくに今は紅葉まっさかりですばらしくきれいなのだ。そして道には多くの巨岩が点在していて、それが紅葉と一緒になって美しい景観をつくりだしている。
道端に舞台のような大きな岩があって、ここからは磐梯山を間近に仰ぐことができた。山腹は錦の紅葉に彩られ、山頂部は岩峰である。晴れた日に登って本当によかったと思った。
登山道は赤埴山の山腹をトラバースしてゆくので、ほとんど平坦な道が続く。紅葉のトンネルの中を歩いて行くと、時々樹林がとぎれて、そこからは紅葉の磐梯山を眺めることができるのだ。楽しい道である。
時々、日本庭園のように岩が散らばるところもあって、目を楽しませてくれる。
一合目から25分ほど来たところに指導標があった。左の道を行くと赤埴山へ登れるらしいのだが、その標識の文字はロープをグルグル巻きにして見えないようにしていた。通行止めのようである。
紅葉のトンネルの道が続き、見上げる磐梯山はしだいに形を変えてきた。ずうっと紅葉の広がる斜面を見てきたのだが、しだいに火口壁の絶壁が見えるようになったのだ。すさまじいばかりの険しさである。そしてこの磐梯山から右に少し離れたところに大きな山塊が見える。これが櫛が峰であった。
赤埴山のトラバースが終わると展望が広がる。ダケカンバの林などを眺めながら歩いて行くと、左下に沼が見えた。道があるので沼畔に下ってみると鏡ヶ沼という標識がたっていた。ここから眺める磐梯山は本当にすばらしかった。紅葉に囲まれた美しい沼で、水面に磐梯山が写っていた。何枚も写真を撮ってしまった。
景色を楽しみながら平坦な道を歩いて行く。右には紅葉の囲まれた巨岩がそそり立っていて、これがまたすごくきれいである。シャッターを押し続けながら歩くことになった。
鏡ヶ沼から20分ほど歩くと、左には草紅葉の草原が見えてきた。右には紅葉に囲まれた沼を見ることができて、少し行くと「沼ノ平」とかかれた指導標があった。登山道から左に踏み跡を入ると、広い草原の上にすさまじい絶壁をもって聳える磐梯山を眺められた。すごいと思ってしまうのだ。
沼の平から歩いて行くと、行く手には岩礫に覆われた櫛が峰が迫ってくる。丸い山頂をもつなだらかな山なのだが、いかにも火山によってできた山で、草木のまったくない岩礫の山なのだ。
渋谷登山道との分岐に着くと、そこには「この付近有毒のガスが発生するので注意」の標識がたっていた。どう注意したらいいのかわからない。
ここから緩やかに登って行く。道は櫛が峰から磐梯山に連なる稜線の鞍部に向かって続いている。進むにつれて傾斜はきつくなって、岩がゴロゴロする急登になった。振り返ると火口原が広がっていて、奥の方は沼になっていた。
ようやく稜線に登り着くと意外なほど広い平坦地が広がっていた。私はここに弘法小屋があるものと期待していたが、なくてがっかりした。
稜線を磐梯山めざして歩いて行くと「三合目天狗岩」とかかれた石碑がたっている。目の前に突き立っている岩峰が天狗岩のようである。ここでようやく三合目なのかとがっかりしてしまったが、ここからは檜原湖を眼下に眺めることができた。この湖は明治の磐梯山大噴火によってできた堰き止め湖なのだ。
ススキの茂る平坦地を行くと、その向こうには壁のような急斜面があって、そこに登山道が続いているのが見える。
この急斜面を登ろうかというところに水場があった。斜面に差し込まれた筒から滔々と流れ出している。コップで飲んでみたら、冷たくてうまかった。
ノドを潤したところで、目の前の急斜面に挑む。岩礫の歩きにくい道で、これを必死で登ってようやくピークに着くと指導標がたっていた。右に行くと、銅沼を経由して裏磐梯スキー場に下るのだ。昔、私が歩いた道である。振り返ると櫛が峰が下に見えて、山頂から左に伸びる尾根は火山灰の急斜面をつくっていた。
この分岐から5分ほど登ると小屋が見えてきた。これが弘法清水小屋であった。
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