BACK 大平山
2006年8月10日
今日登る遊楽部岳は熊の生息密度が極めて濃い山なのだ。これは怖い。
去年、この山に登ろうと思って少しだけ歩きはじめたのだが、天気もよくなくて5分ほどで引き返してしまった。登山道がいかにも熊が出そうな雰囲気なのだ。
さて、今回は何としても登らなければいけない。
朝、目を覚ますと空は晴れている。もう言い訳もできないので登るしかない。
国道脇に遊楽部岳のモニュメントがある小さな広場があって、そこから林道に車を乗り入れる。この林道も荒れた感じの道で、1kmほど走ったところに登山口がある。
熊出没注意の大きな看板が立っている。益々怖さがつのる。他に登山者が来てくれないだろうかと思ってしまう。
よく鳴る鈴をザックにつけて、ホイッスルも持った。ともかく熊に遭うことがありませんようにと山の神様に祈って出発した。5時20分である。
鬱蒼とした樹林の中の道を行く。道はデコボコで雑草が生えていたりで、いかにも荒れた道なのだ。これだけでも気分が重たくなってくる。
平坦な道が続いたが、ジグザグに急登するようになって、尾根の上に出る。
ここからは長い長い尾根歩きが始まる。急な登りはない緩やかなアップダウンが続く道である。
歩いて行くと左にも並行して尾根が続いているのが見える。なにかしら、そちらの尾根のほうが遊楽部岳に続いているように見えてしまう。(実は続いているのだ。白別岳で尾根が合流するのだ)
ガイドブックには二合目が標高482m、四合目が標高676mと書かれているのだが、そこに指導標はまったくなくて、自分がどのあたりまできているのか、まったくわからない。ともかく、目の前に立ちふさがるピークをひたすら乗り越えて行くだけである。
でも、ピークが近づいてくるとすごい登りになるのかと覚悟をきめるのだが、どれもそんなにきついものではなかった。
途中の尾根道にはすばらしいブナの林が広がっていた。昨日の大平山でもそうだったのだが、北海道のブナの森はこの道南でしか見ることはできないのだ。ブナの木にはなにかしら心が洗われるような清清しい気分にさせられる。
歩き始めて2時間ほどでブナの林が終わって、ダケカンバが目立つようになる。こうして、ようやく五合目らしきところに着いた。指導標がないからわからないのだが、このピークからは明らかに尾根が東向かって曲がっている。ここが五合目で間違いないようだ。
ここが中間点かと思うとほっとする。
この五合目から稜線を目で追うと、行く手にすばらしく尖った山が見える。これが白別岳のようだ。その手前には目立ったピークが二つ見える。この二つのピークを越えてから白別岳に登る、でも遊楽部岳山頂はこの白別岳のさらに奥にあるのだ。
なんか、考えるだけで気が重くなってしまう遠さである。
五合目から緩やかに下って行く。稜線は緩やかに左にカーブしてダケカンバの木が茂るピークが近づいてくる。
日が射していて緑が輝いている。今日の天気予報は曇りだったのに、こんなに天気がよかったら大満足である。それに晴れていたら熊に遭うこともないような気がするのだ。
登りが急になって白別岳が近づいてくる。最後に岩の間から下がるロープにすがって登ると、そこが白別岳の頂稜である。山頂はこの登りきったところの少し先にある。白別岳に着いたのは9時20分であった。
山頂には三角点があって、丸い木の板に「8合目(白別岳)頂上まで1.9km」と書かれていた。この白別岳のとなりに鋭く切り立った山がそびえている。この山から連なっている尾根は、私がずうっと歩いてきた尾根に平行して続いていたものである。
白別岳山頂からは遊楽部岳が一望できる。はるばると長い尾根を歩いて、ようやく姿を現した遊楽部岳は実に堂々とした山である。なんとか晴れてこの遊楽部岳の雄姿が見れたのは本当にラッキーである。でも、この白別岳からは一旦下って、それから登り返さなければいけないのだ。あと1.9kmの距離は途方もなく遠いものに感じてしまう。
白別岳から細い尾根を下って、途中にあるコブを一つ越える。いよいよ遊楽部岳への急登である。振り返ると白別岳の眺めがすばらしい。この山も遊楽部岳に劣らず堂々とした山だと思ってしまった。
笹を切り払った道を急登して、ようやく頂稜部に登り着く。でも、遊楽部岳山頂にはこの長い稜線をかなり歩かなければいけない。無意根山と同じような這い松の回廊の道を延々と歩くのだ。ほとんど平坦な道なのだが、山頂はまだかと気が焦ってしまう。
頂稜部についてからすぐに白水岳への分岐がある。これを過ぎてひたすら這い松の回廊を歩いき、山頂に着いたのは10時20分であった。
おもわず「万歳」を叫んでしまった。長い道であった。そして熊も怖かった。それでも何とか山頂に着くことができたのである。うれしくてたまらない。
もちろん山頂には私一人であった。
日差しが強くて、昨日と同じように傘をさした。
山頂の広場は笹と潅木に囲まれているが、なんとか白別岳などが展望できる。でも、雲が湧き出していて、白別岳は雲に隠れようとしていた。天気もここまでもってくれたのだから満足である。
山頂には30分ほどいて引き返した。
長い尾根歩きが再び始まるのだ。途中、九合目の指導標を見つけた。登りではずっと指導標を見逃してきたのかと思って注意して歩いたのが、やっぱりあったのはそれだけでだった。
白別岳に戻ったのは11時40分、五合目が12時40分、登山口に戻ったのは14時であった。結局、他の登山者にはまったく会わなかった。たった一人の遊楽部岳登山であった。
熊に遭うこともなくて本当によかった。
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登山道入り口前の広場にあるモニュメント
登山口。熊出没注意の看板が怖い
薄暗い道、いかにも熊が出そう
ブナ林の尾根道を行く
いくつものピークを越えてゆく。遠い…
五合目、行く手に稜線
白別岳への登り
8合目、白別岳山頂
遊楽部岳へ向かう尾根道
白水岳分岐
山頂には這い松の間の道を行く
遊楽部岳山頂 |