BACK コイカクシュサツナイ岳
2006年8月5日
今日は早く出発する。うまくいったら登山口までもどってしまおうと思っているのだ。
3時半から準備を始めて、出発は4時である。
すばらしい展望が広がっていた。山々はまだ暗い影でしか見えないのだが、谷筋は雲海で埋まっている。
稜線の向こうに1839峰だけが明確にわかる峰をもたげている。
お花畑の中を緩やかに下って行くと、すぐに北大ケルンがあって、すぐにコイカクシュサツナイ岳の山頂に着いた。ここまでは一昨日、来ている。
4時20分、日が昇ってきた。山のご来光である。すばらしい眺めだ。雲海から赤い太陽がゆっくりと昇ってくるのだ。山々が赤く染まる。
コイカクからは急な斜面を下る。その向こうに聳えるのがヤオロマップ岳である。
這い松を掻き分けて行く道であった。
この登山路では一日中、この這い松に苦しめられることになるのだ。
這い松の頑強さというのは本当に登山者泣かせである。景色としては、緑の絨毯のようにきれいに広がっているのだが、実際に歩いて行くと、這い松が道に覆いかぶさっていて、これを必死の思いで掻き分けて進むしかないのだ。
コイカクから下った鞍部が「ヤオロマップの窓」だと思うのだが、ガイドブックにあるようなすごい沢の景色はみられなかった。
鞍部から登りになるが、少し傾斜が緩やかなところで岩場があって、そこから谷が落ち込んでいる。雪渓も見えるすさまじいばかりに険しい谷である。これがヤオロマップの窓であった。
急な登りになる。行く手にく手にピークが見え、そこがヤオロマップ山頂だと思ってがんばって登ったのだが、そんなに甘くはなかった。ようやく頂稜に着いたが、そこからは長い稜線が連なっていて、ヤオロマップはその長い頂稜の一番奥にあるのだ。
振り返ると歩いてきた稜線が一望できる。コイカクシュの奥のピークに、私のテントが黄色い点となって見えた。ずいぶん歩いてきたのだ。
その私のテントの奥にはカムイエクウチカウシ岳が聳えている。すばらしい展望である。昨日一日、テントに停滞したかいがあったというものである。
朝日が昇るにつれて1839峰に作る影が変化してゆく。1839峰というのは本当にりっぱな山である。本州だったら、名前がつかないはずがないのだが、北海道の日高だからこそ名無しで標高だけの山名になっているのだ。それも北海道らしいではないか。
稜線を行く。遠くから見るとほとんど平坦に見えたのだが、けっこう起伏がある。そして背丈の低い這い松が道を被っている。普通の山だったら展望を眺めながら散歩気分で歩けるのだが、日高の山はまったく別である。頑強な這い松コギが延々と続くのだ。
背丈の低い這い松は踏みつけて行くのが一番ラクだということがわかった。高山植物なら絶対踏んだりしないのだが這い松は別だ。
ヤオロマップ岳山頂に着いたのは7時を少し過ぎた頃である。3時間かかってしまった。
山頂に山名の標識はなくて、三角点がおかれていた。テント場もあるのだが吹きさらしで、昨日のように風が強いとテントを飛ばされてしまうのではないかと思った。
このヤオロマップ岳はペテガリ岳へ続く道と1839峰への道との分岐になっている。
ペテガリに続く道はここから急降下していて、その先に稜線が続いている。どれがペテガリなのかよくわからなかった。
私は1839峰を目指す。
ヤブの中を行くとその果てにピークがあって、そこから右に1839峰へ続く稜線が見えた。このピークはヤオロマップの陰に隠れて、歩いてきた稜線からみえなかったのだ。
緩やかに登ってこのピークに着くと、そこからは急降下する。またまたすごいヤブこぎをしなければいけなかった。この登山路からは1839峰の手前にはすごい三角峰が聳えている。あれも越えなければいけないのかと思うと、どっと疲れが増してしまう。
薮コギが延々と続き、アップダウンを繰り返して行く。
道が尾根から少し外れて、斜面を行くところには小さなお花畑があったりする。これがけっこう、うれしい。
1839峰の左手に雲がかかり始めていた。なんとか晴れてるうちに山頂に着きたいものだが。でも、目の前に立ちふさがる這い松のヤブは容易に私を通してはくれないのだ。
必死で登って行くと稜線の左が絶壁になっているのが見えてきた。
すごい登りになった。これが山頂への登りだろうかと思う。必死で登りきると、そのピークからは今まで雲に隠れていた1839峰が姿を現した。まだかなりの距離があって、がっかりしてしまった。
今いるのは1839峰前衛の三角峰だったのだ。
このピークから1839峰に続く稜線の途中には樹林に覆われたピークがいくつか連なっている。これらを越えて行かなければいけないのかと思うとため息が出てしまう。
ともかく行くしかない。
ガイドではヤオロマップから1839峰までは2時間と書かれていたが、もう2時間を過ぎている。私の脚力はこんなに劣るのかと思ってしまった。
ようやく最後の登りになる。急峻である。途中に岩壁が見える。この一枚岩を登るのはきつい…と思って登って行くと、その脇を登るのだった。それでも壁のような斜面で足場は崩れやすく、生えている樹木につかまりながら登る。
岩場を過ぎると、再び背の低い樹林の中に入って、傾斜は緩やかになる。
最後の薮こぎをして、ようやく山頂に着いたのは10時15分であった。
山頂に山名標識はなくて、三角点すらなかった。
登ってきた尾根の南側は雲である。
すばらしい景色である。ここからも、よく目をこらすと私のテントが見えた。あそこから歩いてきたのか、がんばったなぁと満足したが、考えてみるとあそこまで帰らなければいけないのだ。遠い!
30分ほど景色を眺めていた。
さて、引き返す。
山頂からの下りは急である。岩場のところは緊張させられたが、想像してたよりはラクだった。
あとは延々と続く薮コギである。疲れはてている。
這い松の突き出た枝に何度も足や体をぶっつけてしまった。足はアザだらけになっていると思う。
ヤオロマップに戻ったのは1時45分。コクカクシュに戻る途中で6人の登山グループにあった。彼らはヤオロマップにテントを張って、明日1839峰に登るのだそうだ。
コイカクシュに戻ったのが16時10分である。
テントに帰ってきたときは16時半になっていた。ずいぶん時間がかかってしまった。
さて、普通だったらここでテント泊なのだが、もう水がない。水なしで野営はできない。
テントをたたんで5時、下の沢までは2時間かかる。そうすると7時には沢まで下ることができそうだ。今は7時までは明るいので、なんとかなるだろう。
下ることにした。
下ってみて気がつくのだが、この夏尾根というのはすさまじく急な尾根である。見下ろしても、まっ逆さまに谷に向かって落ち込んでいるという感じで、どこにも平坦なところは見当たらない。
下り始めてすぐに岩場がある。これはけっこう高度感があって緊張した。
あとは樹林に入ってひたすら下るだけである。うれしいのは這い松こぎから開放されたことである。
途中のテント場のある1305m地点で休憩。残っていた水はここでなくなった。
ともかく沢まで下るしかない。
気力を振り絞って急下降を続ける。沢音がだんだん大きくなってくる。もうすぐだ。水がいっぱい飲める…、それだけを楽しみにひたすら下った。最後は背の高い竹やぶを掻き分けて進んで、ようやく沢の流れに出た。もう7時になっていて薄暗くなっていた。
川原には5人の登山者がテントを張っていて、一人でテントを張ると熊が怖いと思っていたのだが、これなら心強い。
挨拶をして、彼らの隣にテントを張ることにした。でもその前に水である。
沢の水をそのまま飲むということはしないのだが、今は緊急事態ということで、この目の前に流れる水を汲んでゴクゴク飲んだ。うまかった。500mlのペットボトルに汲んだ水をすぐに空にしてしまって、ようやく落ち着いた。
テントを張り終えて中に入ったときは、本当に暗くなっていた。今日は隣に人もいるし、熊を怖がることなく安心して眠れそうだ。
食料もほとんどなくなっていた。
8月6日
結局、5時に出発した。
徒渉を繰り返して下って行く。
帰り道なので、沢の本流から外れた樹林の中の道も歩いてみた。蛇行した沢をショートカットするので、距離的には短い。
函の巻き道が判らなくて少し引き返したりしたが、順調に下った。
でも、最後に下りすぎてしまって、車道に出れなくなってしまった。
砂防ダムの梯子を登って道にでた。
トンネルを一つ抜けると札内ヒュッテに着く。ここで登山届けのノートに下山の記載をした。私の後に書いた届けを見ると、カムイエクウチカウシ岳に登る人が多いいる。夏山の頭から稜線を縦走して行くのだろうかと思った。
札内ヒュッテの前には、驚いたことに、3日にあった土浦ナンバーの車がまだ停まっていた。何をしているんだろうかと不思議に思った。
ひたすら車道を歩く。いくつものトンネルを抜けて、ようやく車に戻ったのは8時45分である。
車がたくさん停まっていた。
車を走らせて、ピョウタンの滝の園地に着く。ここには日高山脈山岳センターがあるので立ち寄ったのだ。行ってみると掃除の真っ最中で、ドアには開館10時と書かれていた。まだ9時を少し過ぎたばかりである。あきらめて帰りかけたら、掃除のおばさんがいいですよといって、中に入らせてくれた。この人は管理人さんだった。
カムイエクウチカウシには八の沢から登った記憶があるのだが、このダムを遡ったところに七の沢・八の沢があるのだ。すっかり忘れていた。でも、ダムができて道もすっかり様変わりして昔の面影はまったくないのだから仕方がない。
センターの展示は楽しかった。
最後に、管理人夫妻にコーヒーをご馳走になった。
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稜線で夜が明けた
北大山岳部ケルン
コイカクシュサツナイ岳からヤオロマップ岳
1839峰に朝日があたる
鞍部からヤオロマップ岳へ急登する
ヤオロの窓
ヤオロマップ岳山頂
ヤオロマップ岳から1839峰
ヤオロマップ岳を振り返る
小さなお花畑があった
これは1839峰ではなかった
これが1839峰、途中に露岩が見える
急な岩場、露岩の横を登る
1839峰山頂
1839峰山頂からヤオロマップ岳
藪をかき分けて行く
二股直前は笹薮を下る
上二股にテントを張った
私の沢登りスタイル
やっと車に戻った
日高山脈山岳センター |